憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました


たった今、自分とすれ違ったのは柘植直哉だ。

(まさか! あの人がERにいるはずはないのに)

あの頃より少し逞しくなっただろうか。
髪は短くなっていて、優し気な顔立ちがはっきりわかる。

(直哉さん、どうしてここに?)

心臓が飛び跳ねるような衝撃だったが、声を上げなかった自分を褒めてやりたい。
驚きすぎると、人は声を出すのを忘れるようだ。

由美はこれほど狼狽えているのに、彼は気がついていないみたいだ。
由美と至近距離ですれ違ったというのに、平然としている。
無理も無い。もう何年も会っていないのだから当然の反応だろう。
しかも、昔の女なんて興味すら失っているはずだ。

(でも、もし私だとわかったらあの人は……)

未練がましいと思いながら、つい考えてしまう自分がイヤになる。

(あんな人、二度と会いたくなかった!)

由美は自分が受け持つ救急患者のところへ急いだ。

「ミミ先生、ひどい眩暈を訴えている患者さんです」
「はい。持続時間は?」

自分は医者なのだからと、由美は彼への思いを切り捨てた。



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