憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました
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由美はパソコンにむかって、喘息発作で受診した浩太のサマリーを入力していた。
由美の指導医が担当している患者で、彼女も何度か診察している。
発作を起こす回数が少しずつ減ってきているので、今年に入ってから薬を変えたのが正解だったようだ。
「ミミ先生、患者さんがもうすぐ搬送されてきます」
若い看護師がドアから顔だけひょいと覗かせた。彼女も忙しいのだろう。
「はい、処置室で浩太君の顔を見たらすぐ行きます」
浩太の薬を処方してから、由美は処置室に向かった。
今夜のERは交通事故の患者が多いので、スタッフは手一杯だ。
由美も浩太の様子を確認したら、次は眩暈を訴えて運ばれてくる患者の診察だ。
処置室に入ると、浩太は母親になにか話しかけている。
顔色はずいぶん良くなっていたので、由美は聴診器で浩太の胸の音を確認した。
「もう大丈夫ですね。呼吸は安定しています」
不安そうだった母親は、由美の言葉にホッとした顔を見せた。
「浩太君、おうちに帰ってもいいよ」
「ありがとう! ミミ先生」
「苦しくなったら、すぐお母さんに言ってね」
浩太の声にも張りがあり、元気が戻ったようだ。
母親に投薬の注意を話してから処置室を出たとたんに、由美は息を呑んだ。