観念して、俺のものになって



何ができるわけでもないのに、ハラハラしながらその様子を見守っていると、バックヤードからエプロンを掴んだ紬さんが飛び出してきた。

彼は素早くエプロンをつけ、手を洗いながら貼り付けられたオーダー表を確認する。

「いまどこまで出てる?」


その声に、奥から声がかかった。

「アメリカンまでです!
店長、こっちのヘルプお願いします!」

「了解!」


紬さんがカウンターに入っただけで、
一瞬にして空気が変わる。


「ユミちゃんと田中くんはレジ変わって!ユミちゃんは奥のヘルプに!田中くんがやってるオーダーは俺が引き受けるから、そのままカウンター出て空いた席の片付けして、待っているお客様を案内して!」


「は、はい!!」


さすが店長と言うべきか。

彼はドリンクを作りながら、スタッフさんたちに次々に指示を飛ばす。

常に店内の状況を把握しつつ、手を止めない。

あんなに最低なことをするヤツなのに……仕事してる時は、悔しいけどすごくかっこいいよ。


紬さんに言うことがあったけど、こんなに忙しい時に席を占領したり、紬さんに話しかけたりしたら、スタッフさんに迷惑がかかってしまう。

仕方ない、今日の所は帰ろう。


私はコーヒーを飲み終えて椅子から立ち上がり、お代は要らないと言われたからそのまま出入口へと向かう。


その時になって初めて、紬さんは私の存在に気がついたらしい。


カウンターの向こうでドリンクを作っていた彼は、目が合った私にいつかと同じように顔をくしゃっとさせ笑った。


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