観念して、俺のものになって


「あの、紬さん。
さっきの人は紬さんのおじい様ですよね?」


そう尋ねると、紬さんは眉をしかめたままソファの背もたれに凭れかかって天井を見上げた。

そのままたっぷりの間を置いて、短く答える。

「そうだよ。で、俺側の主賓」

「えっ?」


2人で話し合って決めた、今日の披露宴の規模は当初40人とかなりこじんまりしたもの。

しかし、紬さんの親族の偉い人が急に出席することになり、その人の関係で招待客は当初の3倍以上に跳ね上がった。


私がそれをプレッシャーに感じると思ったのか、紬さんはどんな人を招待しているのか今日まで秘密にしていたらしい。


「あのおじい様は有名な方なんですか?」

「…………そういうことに、なるのかな」


彼は認めたくない、とでも言いたげに大きく息を吸って天井に向かって吐いた。

「まひるちゃんには『常闇の街』の『鏑木』、とでも言ったほうがいいのかな……あの人は小説家の蜷川(にながわ)大樹で、
本名は望月泰助(たいすけ)。認めたくないけど俺の祖父だ」

「えっ!!?」


サラッと告げられた、とんでもない情報に素っ頓狂な声が出てしまう。

蜷川大樹って、“日本文学の最高峰”と言われている偉大な小説家だよ。

それがあのおじいさんって、本当なの!?

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