観念して、俺のものになって


「俺が言ってるのはケチな金の問題なんかじゃねえ、色々面倒見てやった借りよ!」

「悪いけど爺さんに世話になった借りはその都度返してるから!とりあえず早く戻って!!」


2人は丁々発止のやりとりを繰り広げつつ、扉の外へと消えていった。

後に取り残された私は呆然としたまま、ぽすんと椅子に腰を下ろす。

まさに、嵐が過ぎ去った後のような静けさ。

「い、今のは一体……?」


それからしばらくしてやって来た、ウエディングプランナーさんと付き人のスタッフさんと式の流れを確認して。

一息ついた頃になってようやく、紬さんは戻ってきた。

いつも余裕を見せているその顔には疲れが見えて、心配した私は彼の顔を覗き込む。



「紬さん、大丈夫?」

「ああ、まひるちゃん……さっきは騒がしくしてごめんね?今日のドレス姿、すごく似合ってる」

「あなたも凄く格好いいですよ」

ありがとう、と微笑んで返事をした後でため息をついて眉間を押さえ紬さんの顔は物憂げで、いつもより色気が増して見えた。


先ほどは気がつかなかったけど、いつもは真ん中で分けられているその髪の分け目は7:3になっている。

緩くウェーブを描く前髪は根本から立ち上がって後ろへと撫でつけられており、髪全体がスタイリング剤で風呂上がりのように艶めいていた。

紬さんはそのまま、部屋に置かれていたロココ調の白いカウチソファーへと座って足を組む。すこし落ち着いた頃を見計らい、私は彼に声をかけた。


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