観念して、俺のものになって
鰻は丼の下にあるはずのご飯をこれでもか、と言わんばかりに覆い隠していて、タレがかかった白米は端の方からわずかに顔を覗かせていた。
私はごくっと唾を飲み込んでから箸を手に取り、食べる前に「本当に食べていいんですよね?」と彼に尋ねる。
疑心暗鬼な私に、紬さんはくすくす笑いながら「いいよ」と返事をした。
それなら、遠慮なく。
肉厚の鰻は、箸を上から押しつけるとすうっと切れた。
ご飯と一緒に1口サイズに切った鰻を口に入れる。最初に感じたのはカリッとした歯触りだ。
それを噛みしめると口の中でタレの味と共に、ふわふわの身が解れて臭みのない上品な脂が広がる。
「んん……お、おいしい……!!」
これが、先生と主人公の『僕』も食べた極上の1品なのは納得できるよ。
小説の描写を思い出しつつ、私はあまりの美味しさに感動して言葉を忘れ、鰻を夢中で頬張る。
結局、その味に魅了され櫃が空になるまで無言で箸を動かし続けた。
***
「ふわあああ……お腹いっぱい!
ごちそうさまでした!紬さん、ありがとうございます!」
鰻を食べ終わった後に出てきた、デザートのマスクメロンを紬さんの分まで食べて、(メロンは好きじゃないからだって。勿体ない!)
仁科先生の本を少し見させてもらい、満足し切って膨れたお腹を撫でながら店を出た。
「満足してもらえたみたいでよかった」
彼はくすっと笑って、私の掌にまた指を絡ませる。