円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 ステーシアは、いたって真面目にレイナードに嫌われようと奮闘していたが、それがどうにも的外れだった。
 その様子に呆れる俺に対し、レイナードはどこか楽しんでいた。
「昔のシアに戻ったみたいだ。生き生きしてるよね」なんて笑って。

 ステーシアがどんなにレイナードに嫌われようとしても、嫌いになんてなるはずがない。
 あいつにとって世の中の女性は「ステーシア」か「ステーシア以外」という分類しかなく、その唯一無二の存在であるステーシアを嫌いになるという概念自体が皆無だからだ。

 もしも本当にステーシアに逃げられたまま彼女が誰かほかの男と結婚でもしたら、大げさな話ではなくレイナードはショックで死ぬだろう。
 そうなったら、俺は確実に王妃様に殺される。

 どうにかしたいけど、どうにもできない膠着状態のままナディアの留学期間が終わろうとしている。

 だったらもう、ステーシアに全部話したっていいだろうと思う反面、今更何を言っても手遅れな気がしていた。
 だからこそ、ナディアの手助けをしていただけだという言い訳じみた話ではなく、むしろ昔も今もこれからも、ずっとステーシアのことだけが好きなのだという気持ちをきちんと伝えないとダメだと、レイナードに進言したのだが…。

 悪い流れの時は、とことん負のスパイラルに陥ってしまうのが世の常だ。

「はあっ?シアに好きだと言え!?何言ってるんだ、そんなこと言えるわけないだろう!」

 レイナードはもちろん、「恥ずかしくてそんなこと言えない」という意味でそう言ったのだが、そこの部分だけを聞いたら大いに勘違いするセリフだ。
 そして案の定、そこだけ聞いたステーシアが「今更そんな告白をされても迷惑なだけだ」と言い放ち、パーティーのエスコートも断って逃げて行ったのだ。

 レイナードは慌てて追いかけたのだが、一瞬窓の外に亜麻色の髪が見えた気がした俺は、レイナードが走って行った廊下ではなく、窓から外を見下ろしてみた。
 すると、見事な着地をきめて元気よく走りだすステーシアの姿があった。

 すげーな、オイ。ここ2階だぜ?

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