円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
「2曲目はシアと踊りたかったのに、会場を出て行ってしまうから追いかけてきたんだ。いきなり手を掴んで驚かせてごめん。シアは相変わらず強いな」

 もちろんよ。星3の脳筋タンクを舐めないでいただきたいわ。

「あら、それぞれ別のパートナーと参加しているんですから、肩書だけの婚約者にそこまでしていただかなくてもいいんですよ?早くナディアさんの元へお戻りになってください」

「ナディアはいま、カインと踊っているから大丈夫だ」

 だからその間に戻れって言ってんの!

 ナディアの健康的なボディーラインを思い出し、本当にわたしはマーガレットのためにこのドレスを最大限宣伝できただろうかと、急に自信がなくなってきてしまった。
 わたしの白くて丸い胸は風船のようで、みっともない体をさらけ出して失笑を買っていたかもしれない。

「シアがとても楽しそうにダンスをしていたから、一緒に踊りたかったんだ。今日は随分と大胆なドレスを着ているんだね。ドレスもそのネックレスもよく似合ってる。母と一緒にシアに一番似合いそうなものを選んだから、いつになったらつけてくれるんだろうと思っていたんだよ?」

 いまさら、どうしてそんなことを言うの?
 わたしのことを好きでもないくせに。白々しいことを言わないでもらいたいわ。

「それと、先日は悪かった。一度シアと二人きりでゆっくり話したい」

 どの件を「悪かった」と言っているのか、わからないぐらいたくさんありますが?
 
 とにかく、一流タンクへの土台がまだ何もできていないうちに婚約破棄を切り出されるのはマズい。
 逃げよう!

「わたしとゆっくり話す前に、今度はナディアさんに贈る素敵なアクセサリー選びをされたらいかがです?これはお返ししますね」
 わたしはネックレスを外してレイナード様に向かって投げつけると、身をひるがえし、スカートを掴んで裾を上げて駆け出した。

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