円満な婚約破棄と一流タンクを目指す伯爵令嬢の物語
 今日はとても体が軽い。
 1曲踊ってウォーミングアップが完了しているおかげというだけでなく、このドレスのおかげでもある。
 ここ最近着ていた悪趣味なドレスは生地をたくさん使い、ドレープもたっぷりなゴテゴテしたもので、とても重たかったのだ。

 手足に重りを巻き付けて体を動かしたり日常生活を送るというトレーニングがあるらしいけど、実はわたしもそれをやっていたのかもしれない。
 ありがとうマーガレット!好きよっ!  

 学院の門の前には、すでに長兄が迎えに来てくれていた。
「レオンお兄様っ!」
「うおっ!」
 スピードがありすぎて足が止まらず、レオンの硬い胸板に激突してしまった。

 さすがは現役騎士だ。
 わたしの猛スピードの体当たりにも兄はビクともしない。

「おまえは婚約者と鬼ごっこでもしてるのか?」
「え?」
 レオンの胸から顔を上げると、後ろから「シア、待て!」と呼ぶレイナード様の声が聞こえた。

「早く帰りましょう?」
 レオンだけに聞こえるように囁くと、兄はコクリと頷いてくれた。

「いくら王家だからって何をしても許されるのか?騎士団にまであんたが婚約者の前で堂々と浮気しているっていう噂が流れてきているんだ。見損なったよ、レイナード。これで失礼させていだたく」
 レオンはレイナード様からわたしを隠すようにしっかりと肩を抱いて馬車まで誘導する。

「シア!もう少し待っててくれ!もうじき全部解決するから、そのときに話そう!」

 馬車に乗り込む時にレイナード様の叫ぶような声が聞こえたけれど、わたしは振り返らずにそのまま馬車の中へ入った。

「ステーシア、あんな男はもうやめろ」
 正面に座るレオンが怒っている。

「わたしもそのつもりよ。そこでね、レオンお兄様、相談があるの」

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