婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 それは彼がリューディアの素顔を見てしまったからだ。恐らく、一目ぼれというものだろう、とエメレンスは思っている。彼女の素顔を見た男性は、絶対に彼女の虜になる。それだけの魅力を秘めている。もちろん、リューディア自身はそれに気付いていないだろうし、わざわざそれをリューディアに教えてあげるほど、エメレンスもお人好しではない。
「もしかして……。わたくしがクズ石置き場を見張っていることに気付いたのでしょうか……」

「え?」
 エメレンスは素っ頓狂な声をあげてしまった。まだ事務所内には他にも人が残っている。リューディアは囁くように呟いたため、それは他の人たちには聞こえないと思っているが、エメレンスのその声は他の人たちからも注目を浴びてしまうほどの声だった。

 リューディアは、続けて囁く。他の人たちの耳には届かないように、と。
「いえ、その、お兄さまに頼まれて。クズ石置き場に監視魔法をかけました。そこに人が来れば、わかるようになっているのです。私がそれを感知するので」

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