婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 リューディア本人はさらっと口にしているが、監視魔法をかけてそれを感知するというのも、高等魔術の一つだ。転移魔法と同じくらいに。さすが魔法公爵家の秘蔵っ子だけのことはある。そして、その凄さにこの本人は気付いていない。

「ちなみに。その監視魔法というのは、どこにいても感知できるのかい?」
 エメレンスはリューディアの耳元で小さく尋ねた。それがくすぐったいのか、彼女は首元をもぞもぞと動かす。その仕草すら、エメレンスにとっては毒だった。リューディアはそれに気付いているのかどうかわからないが、「はい」と小さく答える。

「ディア。早く残りの仕事を終わらせて、さっさと帰ろう」
 今までの話を誤魔化すかのようにしてエメレンスはわざとらしく言った。

 リューディアが残業してまでまとめていた資料は、例のクズ石に関することだった。実際、あのクズ石が盗まれて違法に魔導具に転用されているとしたら、きちんとした管理下において、利用する方法を考えた方がいいと思っていた。クズ石の利用方法としては、一度熔解させて再構築すること。これは天然の魔宝石とは異なるがやってみる価値はあると思っている。つまり、人工の魔宝石だ。
 さらに、使用済魔宝石の再利用。魔宝石は、このボワヴァン山脈に流れている水脈の水が長い年月をかけて岩石に沁みていき、それが魔法石になったと言われている。どうやらこの水脈の水が聖なる水と呼ばれる魔力を備えている水ではないのか、とも考えられている。つまり、使用済魔宝石をこの水脈の水に浸すことによって、失われた魔力が戻るのではないか、とリューディアは考えていた。となれば整備する必要があるのは、その水脈までの通路だろう。

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