婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
「ディア、そろそろ帰ろうか。あまり遅くなってもイルメリさんが心配するだろ?」
 気が付けば、事務所に残っていたのはリューディアとエメレンス、そしてヘイデンの三人のみとなっていた。
「あ、はい。わたくしもちょうどキリの良いところまで資料がまとまりましたので」
 リューディアは書き上げた資料をとんとんと机の上で揃えてから、引き出しにしまった。先日の事務所荒らしの件もあるため、引き出しにはしっかりと鍵をかける。

「お兄さま。わたくしたちは先に帰りますね」

「ああ、気をつけて帰れよ」
 書きかけの書類から視線をあげるようなことはせずに、ヘイデンは二人に手を振った。
「あ、ディア。今日は遅くなること、イルメリには伝えておいてくれ」

「わかりました。お兄さまもあまりご無理をなさらずに」

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