婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 そこにはもう「ブス」と言われて、隠れるような少女の姿はなかった。

 誰にも気付かれないようにと、エメレンスは彼女に眼鏡を贈ってまでその姿を隠させてきたのに、彼女は今、自分の手の中から飛び立とうとしているようにさえ思えた。それは嬉しい反面、少し悔しくもある。

 モーゼフの婚約者という手の届かない立場にあった彼女。そこから退いた彼女は、ようやく自分の隣に並んでくれたと思ったのに、彼女はまた手の届かない場所に旅立ってしまうのだろうか。

「うん、そうだね」
 複雑な気持ちを抱えたエメレンスは、そう答えるのが精いっぱいだった。今は、あのエリックが羨ましいとさえも思う。自分にも、彼のように一歩を踏み出せる気持ちがあれば。

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