婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 リューディアは久しぶりにモーゼフと会うことに緊張していた。あの日、彼に呼び出され婚約解消を口にされてからは会っていない。座っていたリューディアはぎゅっとドレスの裾を握りしめる。エメレンスはもちろん、それに気付いた。
 通された応接室は、あの日、エメレンスに励まされた場所。そこに、これからモーゼフがやってくる手筈になっているのだが。コチコチという規則正しい時計の針の音だけが、異様に大きく聞こえた。
 扉が叩かれ、開かれる。

「兄上」
 エメレンスが立ち上がったため、リューディアも同じように立ち上がる。扉の向こうから現れたのはリューディアにとっては半年ぶりに会う元婚約者。

「エメレンス。久しぶりだな、どうかしたのか?」

「……っ」
 リューディアは息を飲んだ。しばらく会わないうちに、大分やつれてしまったように見えるモーゼフ。そして、精気の宿っていないようなその目。なぜ誰もこの状態をおかしいと思わないのか。そういえば、この王城に足を踏み入れた時から、ここを纏っている空気が重いことに気付いた。それが、奥に進めば進むほど重くなる。そして、最も重さを感じるのが、モーゼフの部屋付近。

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