婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 こくっと、リューディアは頷くことしかできなかった。

「モーゼフさまは、わたくしのお顔が嫌いなようです」

「え?」
 その告白にエメレンス自身も驚きを隠せない。あの兄が、リューディアの顔を嫌いなはずは無いのだが。

「わたくしにむかって、ブスとおっしゃいまして。その、わたくしの顔を見ると、モーゼフさまは胸が苦しくなるそうです。それで、顔を見せないようにと、おっしゃいまして。それで、その。どうしたらいいのかと……」

 エメレンスは、このリューディアと兄が鈍感で良かったと心から安堵した。だからって、正直にそれを口にするほど、エメレンスもお人好しではない。自分だって、一目見た時から彼女のことが――。

「リューディア。その、きれいとかかわいいとか、そういった感覚って人によって異なるものだから。だから、兄上が君のことを、そのブスって思ったからって、みんながみんなブスって思うわけじゃないよ」

「ですが……。そのモーゼフさまは、わたくしの婚約者でいらっしゃいますから、モーゼフさまに嫌われたら……」

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