婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
「お話は以上でしょうか?」

「ああ、そうだ。もう、帰ってかまわない」
 リューディアは飲みかけの紅茶が気になったが、婚約解消を望む男性といつまでも同じ部屋で同じ空気を吸いたいとも思わなかった。

「では、失礼します」
 すっと立ち上がり、堂々とした面持ちで部屋を出た。バタンと扉が閉まり、やっと空間が分断された。
 眼鏡のテンプルに手を当て、眼鏡の位置を調整する。しっかりと顔を隠すように、と。

「リューディア」
 モーゼフの部屋の前から離れようとしたとき、隣の部屋からひょっこりと顔を出してきた男性がいた。

「エメレンスさま……」
 その男は、モーゼフの弟であり、このリンゼイ王国第二王子のエメレンス・ファン・リンゼイだった。兄と同じような瞳の色と髪の色をしているが、その髪は長髪の兄とは違って短くしているし、いつも緑色の瞳が見えている。

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