婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 だからこそエメレンスは思った。
 なぜ彼女は兄の婚約者なのか、と。生まれた順が早いから、彼女の婚約者に選ばれたのだろうか。

 なぜならエメレンスも、彼女を一目見た時に兄と同じような感覚に捉われたからだ。恐らく一目ぼれ。一目ぼれだけであったら諦めることができると思った。だけど、会って話をするうちに、次第に彼女の良さに気付いてしまい、そして惹かれていった。なぜこの女の子が兄の婚約者なのだろう、と。そうでなければ、自分の婚約者にと望めたかもしれないのに、と悩みだす。
 悔しいと思った。そして羨ましいと思った。自分にはないものを持っている兄が。
 だが絶対に許せないことが一つだけある。それは彼女に向かって「ブス」と発したことだ。初めて彼女と会った日に、彼女に向かって言ったことは、エメレンスの耳にもしっかりと届いていた。そして、その言葉を聞いて悲しそうな表情をしていたリューディア。

 さらにモーゼフは彼女と会うたびに「ブス」と言い、顔を見せるなとまで言い出し始めた。
< 68 / 228 >

この作品をシェア

pagetop