婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 美味しいという言葉を口にしたときに、エメレンスはにっこりと笑ってくれた。だからリューディアも釣られて笑ってしまう。

「うん。やはり君には笑顔が似合うよ。とても可愛い。このように可愛い女性と婚約を解消したいだなんて、兄上は一体何を考えているのか……」

 そこで侍女がお茶とお菓子を乗せたワゴンを押して部屋に入ってきたため、エメレンスは口を噤む。
 二人の前にお茶とお菓子が並べられた。恐らく侍女は隣の部屋で待機していることだろう。いくら場所が応接室といえども、年頃の男女が二人きりで一部屋にいるのはよろしくない。だから今だって、エメレンスはリューディアと向かい合って座っている。

「それで。兄上はなぜ君との婚約を解消したいと言い出したの? 理由は、聞いた?」

 はい、とリューディアは頷く。

「その……。わたくしがこのように醜いからです。醜いから、眼鏡をかけておりましたが、それすらモーゼフさまはお気に召さなかったようで」

「そうか……。美醜というものは、個人の感覚によるものが大きいからね。ボクは君のことが醜いとは思わない。だけど、他の者は醜いと思うかもしれない。その他の者の一人が、恐らく兄上だったのだろうね」

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