愛してるなんて言わない(仮)
靴音が響いていた。勢い良く上がって来たのは女の子だ。…階段を…元気だな、若いってこういう何気ないことで証明されてる。思わずフッと笑ってしまった。自虐っぼくだけど。
学生さんだと思った。勝手な思い込みだけど、醸し出す雰囲気、服装がOLさんのそれではなかった。女の子の後にどうやら男の子も上がって来てるようだった。さっきより更に強く響く靴音、そんな気配だった。

追いかけて駆け上がって来るなんて…デートかな。いいわね、きっとそうだ。あ、いいわねなんて、違うかもしれないのに、男女が居ればそんな風に勝手に思ってしまう。

「梨瑚、ちょっと…待って、待てって」

ん?もめてるのかしら。充分聞こえてるはずなのに、女の子は返事もしない。ドキドキした。これって、あまり、こういう場面は見てはいけない気がしたのと、なんだか聞いたことがある声にだ。

急に少し、ううん、かなり早足になっていたのが自分でも分かった。
早く駅におりてしまいたかった。目指す入り口はもう少しだ。

「おい、急にどうしたんだ。急にでもないか、今日、なんだかおかしくないか…おい…」

少し離れても聞こえてくる声をなんだかこれ以上聞きたくなかった。

リコと呼ばれていたその子から声を発せられることはなかった。
かなり、機嫌を損ねているのだろうか。
どっちが悪いの?それともなにか誤解?
なんにしても、話をしないと解決しないのでは?

「……ハァ、おかしいのはどっち?」

返事をする気になったらしい。足音が止まった。イラついた声であっても高くて可愛らしい声だった。

………。

それ以上は聞こえなかった。
私は地下に下りた。向こうは反対側に向かったのだろう。きっと、リコという子の向かう先はアーケード街の反対側なんだろう。そっちが自宅のある方なんだろうか。

…ハァ。
他人事であってももめているような会話はあまり聞きたくはない。
何が彼女の機嫌を悪くしたのか。
つき合いはそこそこに長いのだろうか。
自分には関係ないのだか、少し考えてしまった。
< 19 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop