愛してるなんて言わない(仮)
「…いいの?」

「え?」

「あ、えっと、確か…お友達と一緒じゃなかった?それに」

彼女と言わずお友達とと、咄嗟に言葉が出た。ここに居ていいの、っていう言葉は飲み込んでいた。


「あ?え?あぁ、バス停まで送って来たから大丈夫です」

「そう…」

だったんだ。それなら心配ないかな。誰か他にも乗る人が居たのかな。まさか、一人でおいて来た訳でもないだろうから。

「バス、丁度来たんで」

「そう」

と、これで、だ。では、私達の、今のこの状況は。
室井君にしか事情は分からない。

「すいません、大したことではないんです」

大したことない?
帰ってる私を引き留めてこうしてコーヒーを飲むことになったことが?
理由は?緊急なこととか?
それが知りたい。

室井君は肩から下げていたポシェットのような小さいバッグに手を入れた。

「あー、ちょっと端が粉々になってるかも」

あ、そうだ、こういうバッグ、確か…サコッシュっていうんだ。

「これ」

ん?プロテインバーかな?
チョコ味で……ドライフルーツが入ってるみたい。…ラズベリーかな。これが?

「気がついてもらえなかったみたいで、そのまま帰ってきました」

ん?
分からない、なんのことだかさっぱり分からない。

「あー、すいません、分かりませんよね、全然」

「はい、全然」

頷いてみせた。

「ハハ。えっと、あの……たまたまあの日、コンビニによって買ってあって、何個か、こういうの。その中で、一番好きかもって思ったのがこれだったんですけど」

…まだ分からない。でも、好きかもしれないと思う物を選んだというのは分かった。それが誰にだか、なぜ、それを私に話しているのかも。それはまだ分からない。

「ん?…あ!…あぁ、もう、分からないですよね、何のことだか」

「はい、まだ全然」

正直に答えた。


「あの日、あの雨の日、追いかけたでしょ、俺、猛家さんのこと」

「あ、はい」

確かに。それはそう。

「慌てて、入れて置いたんです、これを」

改めて差し出された。

「これが入ったままだったから、傘、広げることはなかったんだと思って」

「え?」

あ、なんだか、ジワジワ分かってきた。

「もしかして…」

「そう!その、もしかして」

指を同時に指しあった。
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