天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 勝手なことして、本当はよくないんだけど。

 部屋の中をきょろきょろと見回し、部屋の状態を確認した。ケージとクレートがある。部屋を片付ける間ここに入ってもらうことにした。

 カウンターの上に置いてあったお菓子の袋を手にするとうれしそうに尻尾を振って近付いてきた。

「こっちだよ。ほら」

 警戒してなかなかクレートに入らない。しかし何個かお菓子を放り込むとそれを追いかけて中に入った。

「少しここで、待っていてね」

 クレートの扉を閉めて、タオルをかけて少し暗くしてやると最初はガサゴソ音がしていたが静かになった。おそらく眠ったのだろう。

「これでよし。さて少しだけでも片付けよう」

 おせっかいかもしれないが、緊急事態だ。目覚めて部屋がこの状態だとまた具合が悪くなるかもしれない。

 純菜はひっくり返ったごみ箱を手に、そこら中に散らばったトイレシートとティッシュペーパーの残骸から片付けることにした。

 ずいぶん派手にいたずらしていたが片付けは一時間もしないうちに澄んだ。ついでだとシンクにたまっていたコップも綺麗に洗う。

 まだ起きないみたいだし……少しピッピと遊ばせてもらおう。

 体調が悪い人の横で不謹慎だと思うけれど、あまり長く閉じ込めているのも可哀想だ。
それに純菜は無類の犬好きだ。しかし今住んでいる部屋はペット不可だし、ひとり暮らしで部屋をあけることも多いのでペットを飼うのは我慢している。

「ほら、おいで」

 ゆっくりとクレートの扉を開けると、ピッピが小さなしっぽを振りながら出てきた。まんまるでほわほわのポメラニアンに手を差し出すとぺろぺろと指先を舐めてきた。

「かわいい!」

 思わず声がもれてしまう。あわてて手を口で押えて、壱生を起こしていないか確認する。

 よかった……まだ寝てる。

 それからもなるべく音を立てないように、おもちゃやおやつを使ってピッピと遊んだ。

「矢吹……?」

 背後から壱生の声が聞こえて振り返る。

「鮫島先生、起きたんですね。お加減いかがですか?」

 ピッピを抱いたまま鮫島がいるソファの近くに行く。

「ああ、だいぶましになった。ただの寝不足だからな。すまないな、片付けしてくれたのか?」

「はい。ある程度ですけど。あのままじゃ起きた時にまた調子悪くなるかなって」

「それは……そうだな」

 壱生は髪をかき上げながら小さく笑った。

「あ、何か飲みますか? 勝手していいなら持ってきます」
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