天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 重ねるだけの優しいキスじゃない。

 感情をぶつけるような激しいキスに純菜は目を見開く。壱生の大きな手が彼女の髪をかき混ぜるようにして引き寄せ、そのぶんだけキスが深くなる。

 我慢できずにぎゅっと目をつむり、情熱に押し流されるように彼のキスに応える。

「ん……っ、ま、待って……い……っせいさん」

 突然のキスに戸惑いながらも、何とか状況を整理しようとする。彼は唇を離し、純菜を見つめる。

「はぁ。やっぱり君には名前を呼んでほしい」

 ゆっくりと指で髪を持て遊ぶようにして、とろけるような視線を向けられ、純菜の心臓は壊れてしまうのではないかと思うほど激しく鼓動を打っていた。

 彼の唇がもう一度純菜の唇に重なる。触れるだけのキスをしてから壱生は思い切り純菜を抱きしめた。

「好きだよ、純菜。俺の方がずっとずっと君のことを好きなはずだ」

「えっ」

 予想もしなかった言葉に、脳内がパニックになる。

「ど、どどどういうことですか?」

 理解がおいつかない。早く説明してほしい。

「姑息な手段を使った俺が、全部悪い。すまなかった」

 耳元で大きく息を吐いた後、彼がそう言った。純菜は先が気になるけれど焦らずに彼の言葉を待つ。

「君が俺のことを好きになってくれる、自信がなかったんだ」

 百戦錬磨の鮫島壱生の言葉とは思えない。意味が分からずにだまたままでいると、壱生に顔を覗き込まれた。

「呆れてるのか?」

「いえ、あの……それって壱生さんは、以前から私のことを好きだったみたいに聞こえるんですけど」

「そうだよ。鈍い君は気が付いてなかったけどね。何度食事に誘っても袖にされてそれでも諦めなかった俺のメンタルの強さすごくないか?」

「そんな、全部冗談だと思ってました」

 意外な事実を告げらえて驚きしかない。

「真剣に誘って逃げられたら笑えないだろう。だからずっと待ってたんだチャンスが来るのを。だから実家のトラブルやピッピの事を理由に、手に入れようとした。もう知ってると思うけど、俺卑怯だから」

「自分で言うんですか?」

 思わず笑ってしまった純菜の目元に滲む涙を、壱生の指が優しく拭った。

「初めて自分からこんなに好きになって、自信がなかったんだ」

 もう一度壱生が純菜を抱きしめた。彼女の肩に顎をのせてもう一度大きく息をはいた。

「俺は、純菜のことになると、めちゃくちゃかっこ悪くなる。どうしてくれるんだ」
< 61 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop