天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 純菜の様子がいつもと違うのに気が付いたはずだが何も聞かないでいた。

 久しぶりに感じる大好きな人の体温。ほっとして涙がにじむ。それと同時に数日間ほとんどねむれていなかった純菜はあっという間に眠りについた。

 翌日土曜日。

 純菜が目覚めたとき壱生は隣で彼女の顔をじっと眺めていた。起き抜けに見つめられていることに驚きそして恥ずかしくなり顔を赤くした。

「おはよう」

「おはようございます。壱生さん」

 そのままだ抱き寄せられて密着するとほっとする。いつもなら朝だからとか理由をつけて彼の手をほどこうとするが今日はその手のぬくもりをずっと感じていたかった。

 しかしずっとそうしてはいられない。土曜日で仕事が休みの今日、純菜は実家の様子を見に行く予定にしていた。

「壱生さん、お味噌汁飲みたくありませんか?」

「いいな。じゃがいも入れてくれるか?」

「はい、わかりました」

 純菜はベッドから降りると部屋を出るときに振り返る。そこに壱生がいてくれるだけで気持ちが落ち着いた。

 落ち込んでてもどうしようもない。とりあえずどうなってるか見に行かなきゃ。


 壱生は純菜が作った朝ごはんを食べて仕事に出掛けた。休日に出勤するのはめずらしくないのでいつものことだ。だからこそ純菜は壱生がいない今日を狙って実家を訪ねた。

「ただいま」

 玄関から中に入るとリビングから宗則が顔を出した。

「あれ、こっちにいるの? 病院は?」

 いつもなら診療時間のはず。獣医師である宗則が実家のリビングにいるのはおかしい。

「ちょっと休もうかと思って。ほら、父さん働きすぎだっただろ?」

 嘘をついているのがバレバレだ。今までは休診日でさえ急患に応じていた。そんな人が休みたいなんておかしい。

 純菜は無言のまま、裏口から動物病院へ向かう。そこで目にしたのは、ひどい有様の病院だった。

 窓ガラスは割られて壁には「ヤブ医者」などとスプレーで落書きがされている。

「ひどいっ」

 この状況では確かに診察できないだろう。

 思わず涙がこぼれた。人の大切な思いや場所をこんな風に傷つけるなんてひどすぎる。

 純菜は庭にあるホースを使って壁に水をかける。同時に外に干してあった雑巾で必死になって壁をこすった。

 しかし全く落ちる気配はない。それでも続けた。くやしさで涙を流しながら。
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