禁断溺愛〜政略花嫁は悪魔に純潔を甘く奪われ愛を宿す〜

もしかして何か気づいてる？
彼なら、この状況から本当に助けてくれるんじゃ……？
なーんて。そんなスパイドラマみたいなこと、現実にあるはずないよね。

だけど、何か感じたらしい彼の親切が、身に沁みる。あり得もしない希望を抱いてしまって、じわじわと目頭が熱くなった。
一ヶ月の間堪え続けていた涙が、黒い瞳の表面をあっという間に侵食していく。

悲しくても、泣いちゃダメ。我慢しなきゃ……！
切なく軋む胸を手のひらでぎゅっと抑えた私は、頭(かぶり)を振って、「夫がいますから」と無理やり笑顔を作る。

「お気遣い、ありがとうございます。でも、大丈夫ですから」

将来有望な男性の未来を閉ざすわけにはいかない。
それに単純に警察に通報されて、家族の身に危険が及んだりしたら本末転倒である。
私はもう一度「失礼します」と頭を下げてから、新聞や荷物を抱え直すと、彼から逃げるように足早に踵を返した。