禁断溺愛〜政略花嫁は悪魔に純潔を甘く奪われ愛を宿す〜

帰宅後。家事を終えてから、私は楽しみにしていた九條さんのコラムを丁寧に読んだ。
新聞は三日分溜まっていたので、今日で最終回。
本人と知り合ったからか、色鮮やかに心に刺さって、余計に読了後の余韻に寂しさが増した。

しんと静まり返った冷たい家に夕陽が差し込む中、ソファの上で膝を抱える。

お父さんとお母さんは、ちゃんと元気かな？　清斗(きよと)は、変わらず高校に通えてる？　ご飯は喉を通る？
私はね、なかなか食べられないんだ。でも、清斗は食べ盛りだし、お父さんとお母さんはもう五十代後半なんだから、みんなしっかりご飯を食べて――

「……ううっ。みんなに、会いたいよ……っ」

家族が抱いているだろう葛藤や心配を想像しては、胸が苦しくなる。
両親や弟の負担を少しでも減らすためにも、私が妻として東藤を籠絡できればいいけれど、現実は難しい。常に緊張と恐怖でひりついている皮膚は硬直して、笑顔だって上手に作れなかった。

そんなことを考えていると、ふと脳裏に九條さんの顔が浮かぶ。

……ずっと素っ気なくて冷たい無表情で、いてくれたら良かったのに。
最後の最後で、あんな風に優しく引き止めるなんて、ずるい。

なんだか、真剣な眼差しが、記憶に焼き付いて離れない。
私は両手を握りしめて、切ない痛みを伴う感情をぎゅうっと堪える。

「……まだ、大丈夫。……大丈夫。頑張ろう」

心の均衡が危うげにグラグラと大きく揺れているのには、気づかないふりをした。