禁断溺愛〜政略花嫁は悪魔に純潔を甘く奪われ愛を宿す〜
「お邪魔いたします」

彼の長い腕が玄関ドアを室内側から支える。中に入るにはそのすぐそばを通らなくちゃいけなくて、まるで九條さんに壁ドンされているような体勢に、私はドキドキして息をひそめた。

ダイニングルームに案内されながらも、ついそわそわしてしまう。家の中は同じ間取りなのに、まったく雰囲気が違うのも原因かもしれない。
東藤の家は成金趣味という感じがあるが、九條さんの家はお洒落なホテルライクのインテリアで統一されていて、心を穏やかにさせてくれる雰囲気があった。

所在無げにしていると、九條さんが「ふっ」と小さく笑った。

「この家に盗聴機とカメラは無いから安心していい」
「えっ」
「警戒しているんだろう? 籠の鳥も少しくらい自由に羽を伸ばすべきだ」

私の手から夕食の入っているバッグを自然に受け取った彼は、「そのために俺はこの時間を作ったんだから」と甘やかな垂れ目をやわらかく細める。

「それは、その、私のために……?」
「それ意外にどんな理由がある? 初めて会った時から、あなたがずっと心配だった」

九條さんは「そこに座って。準備は俺が」と料理を持ってキッチンへ向かう。
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