禁断溺愛〜政略花嫁は悪魔に純潔を甘く奪われ愛を宿す〜
「今日のは格別に美味しい気がする。なんだか思い出がこもっている味というか、身体に沁みる」
「ふふふっ、実は今日のメニューは母直伝の我が家のテッパン料理なんです。父と弟はいつも争奪戦で。母と私が揚げ物担当で、キッチンでつまみ食いなんかしたりして」
「そうか。賑やかで明るい、素敵な家族だな」
「はい。自慢の家族です」

彼は「俺の家は幼い頃から外食が多くて、母親の手料理もあまり食べたことがなかったから、羨ましい」と、少し寂しそうな顔で眉を下げる。
現在は仕事がかなりのハードワークで、会食でもなければ、ほとんどコンビニで買うか栄養補助食品で補うらしい。

「清華のこういうあたたかい料理を、俺も一生食べられたらな」

棗さんと、もっと早く出会えていたらよかったのに。
そしたら普通に結婚して、子どももいて、幸せなあたたかい家庭を築けたかもしれない。東藤に婚姻関係を結んで人質にされる隙もなく……愛し、あえたかも。
そんな〝もしもの世界〟を考えるだけで、胸が痛む。
恋がこんなにも切なくて苦しいだなんて、知らなかった。
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