夜を越える熱
信頼への試験
翌日。


「ねえ、藍香。今日帰り時間ある?」

昼休みに美桜が声をかけてきた。


午前はトラブルの後始末をもう少し行い、あとは各方面に支障がないか検証するところまで何とか作業を終わらせたところだ。


昼休みは職場の食堂を利用することもあるが、休憩室やデスクで食べたりもする。たまに美桜や同僚と外食に出ることもあるが、今日はぼんやりしながらデスクにいた。



昨夜はなかなか寝付けなかった。


今井とのことが頭を占めてしまったから。

スーツ越しに伝わる広い肩や胸の感触。触れた唇や彼の香り。耳元で聞こえた声。



全てが藍香を惑わせた。

あの後、黙っている今井の視線に耐えきれず、帰るね、とだけ言うとその場を後にした。その後彼がどうしたのかは分からない。



「うん、……少し残業するかもしれないけど。それでもいいなら大丈夫だと思う。だいぶ作業は終わったし」

「良かった。じゃあご飯行こう」


美桜はほっとしたように笑っている。美桜は松岡のことも知らないし、今井とのことも知らない。今井が同じ職場に勤めていることも知らないかもしれない。


けれどミスやトラブルのこともあり、心配してくれているのだろうと思った。



─美桜に話したらどう言うかな……。藤崎部長のことを好きになったかもしれない。今井さんには止められて、キスまでされたって言ったら…。やっぱり部長なんてやめなよって言うかな。



『結果を待つ』と言われたもののまだ藤井課長に話は出来ていない。報告できる物は何もない……。部長室を出る前に少し笑っていた藤崎を思い出す。


─今井さんが言っていたように、藤崎さんには気づかれているんだろうか。私が来た理由を。










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