夜を越える熱
定時過ぎ。
部長室のある二階上のフロアに向かう。……今日は結局、何も出来なかった。課長とも話は出来ていないし、部長室に向かっても何も報告出来ない。
なのに、何となくそこに向かってしまった。
─「事業企画部」
部署の上に掲げられたプレート。
今井が所属している部署だ。あまり気にしていなかったが、ここはどんなことをする部署なのだろう。藍香には想像もつかないが、花形の部署なのだろうということくらいは分かる。
カウンターの外、通路を通りながら何となくその部署を観察してしまう。
定時を過ぎたのに多くの職員が帰宅する様子もなく仕事をしている。その中に今井の姿もあった。
パソコンに向かって座る若い男性に隣で何かを教えているように見えた。
男性は何かを訊ね、それに今井が答えると男性は頷いて教えられた通りに作業を始める。一瞬だけその作業の様子を確認すると今井はその場を離れ、自席に戻る。
と、今度は別の職員が現れ、書類を見せると何かを今井に伝えた。その書面の一部分を示すと相手の目を見て一言指示を出す今井。
何の迷いもない姿。
仕事の目指すべきところに向かってただ突き進んで行く意思が見える。
これがいつもの今井なのだろうか。
藍香はその姿に見入っていた。
『俺、いつの間にきみのことを』
目の前の今井に比べると、あの時呟くようにそう言った彼の方が、むしろ彼らしくなかったのかもしれない。
「……誰かお探しですか?」
ふいにその部署の職員だろう女性に声をかけられた。
部長室のある二階上のフロアに向かう。……今日は結局、何も出来なかった。課長とも話は出来ていないし、部長室に向かっても何も報告出来ない。
なのに、何となくそこに向かってしまった。
─「事業企画部」
部署の上に掲げられたプレート。
今井が所属している部署だ。あまり気にしていなかったが、ここはどんなことをする部署なのだろう。藍香には想像もつかないが、花形の部署なのだろうということくらいは分かる。
カウンターの外、通路を通りながら何となくその部署を観察してしまう。
定時を過ぎたのに多くの職員が帰宅する様子もなく仕事をしている。その中に今井の姿もあった。
パソコンに向かって座る若い男性に隣で何かを教えているように見えた。
男性は何かを訊ね、それに今井が答えると男性は頷いて教えられた通りに作業を始める。一瞬だけその作業の様子を確認すると今井はその場を離れ、自席に戻る。
と、今度は別の職員が現れ、書類を見せると何かを今井に伝えた。その書面の一部分を示すと相手の目を見て一言指示を出す今井。
何の迷いもない姿。
仕事の目指すべきところに向かってただ突き進んで行く意思が見える。
これがいつもの今井なのだろうか。
藍香はその姿に見入っていた。
『俺、いつの間にきみのことを』
目の前の今井に比べると、あの時呟くようにそう言った彼の方が、むしろ彼らしくなかったのかもしれない。
「……誰かお探しですか?」
ふいにその部署の職員だろう女性に声をかけられた。