男達が彼女を離さない理由

　彼女は珍しく食事をしている。皿にサンドイッチが載っている。食べたら2人して彼女の部屋に行くんだろうな。あぁ羨ましい。
　あんなことやこんなことを想像してしまい、自分が置いてけぼりな気がして落ち込んで来た。コーヒーを1杯だけ飲んだら帰ってしまおう。
　2人の会話がかすかに聞こえる。「新作の」という言葉が何度か聞こえた。彼女はその小説家の作品の排出に関わって来たのかな。アカデミックで羨ましい。次の作品も購入しよう。
　コーヒーをいつもより速いスピードで飲み干して、とっとと店を出た。彼女に見向きもせず、他人のフリをした。その小説家のことなんか知らないし、興味も無いという雰囲気は漂っただろうか。

「こないだの小説家は一体どんな知り合い？」
　彼女の前に座って開口一番に訊いてみた。訊かずにはいられなかった。
「ご存知でしたか」
「そりゃ知ってるよ、有名だもの。俺が持ってる本にサインしてもらおうかと思ったくらい」