線香花火の初恋【短編】
1 目は口ほどに物を言う


ゆっくり灯って、花が弾けて、最後に消えるか落ちる。


好きな人のことはいつだって見つめていたい。でも付き合いたいなんて、烏滸がましいことはおもっていない。それが花本 若菜の本心だった。

同じクラスメイトの岸田 基弘君のことを授業中なら、後ろから。黒板の前に立っている時は真っすぐに、友達と話しているときはいつも通り盗み見て。

とにかくその姿を追いかけていた。特に彼の瞳が好きだ。周りから見ると誰とも一緒な代り映えのしない黒色だと思うだろうが、太陽の光に照らされるとその色素は若干薄くなり、薄い茶色が溶け込んでいく。

初めはその瞳の美しさに惚れて、その次は笑顔、次は仕草、そして性格と見ていく時間が長ければ長いほど発見する彼の良さ全てに魅了されていく。

帰り際に、岸田君に「花本」って呼び止められた。名前を呼ばれたのは、いつぶりだろうか。基本的に女子と一緒にいて、男子と話すことは必要最低限だったのだ。
授業以外で初めて真正面から見たかもしれない。


相変わらず、瞳がとても綺麗だった。今は夕焼けの滲むようなオレンジと私の好きな色素の薄い茶色が混ざっている。ほどほどに近い距離では少し見上げないと視線は瞳まで到達しないのか、とそんなことを思った。
友達の愛ちゃんと帰る予定だったが、愛ちゃんは「先帰ってるね」と行ってしまった。
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