線香花火の初恋【短編】
「……どうしたの?」

私的な会話なんて、したことないのだ。訝しげに、声を潜めて問うたものだから岸田君は鼻白んだ。

「……聞きたいことがあって、こっちきて」

私は待ち伏せられていたのだと悟った。たまたま、いて、声をかけたのではなく。
今までこんなことがなく、話せたというトキメキで感情が浮かれているのが半分。なぜ、待ち伏せしてまで聞きたいことがあるのかという漠然な不安が半分といった状態だった。


だって、彼はサッカー部で部活終わりでわざわざそのまま帰らずに校内にいたのだから。連れてこられたのは誰もいない教室で。部活終わり、先生ですら帰り始めているものだから、校内に残っているのは私たちみたいな奇特な人間と、受験生で熱心に勉強している三年生の先輩と。

「花本はいつもの席、座れよ」

岸田君は黒板の前に立つと、先生のように指示した。黒板から向かって、右の後ろから二番目の席。いつもの見ている距離感に安心するように息をついた。近い距離では、浮かれていたが緊張して身体が強張っていたのかもしれない。大人しく、席に着いて、改めて岸田君を見つめた。彼はいつもと違う、難しい顔をして頭をぐしゃぐしゃにかいた。
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