私の恋心と彼らの執着

「ありがとう。……ちょっと落ち着いた」
「そうか」

 しばらく、沈黙が続いた。
 お互いに言わずにいることが何なのかわかっているから、逆に居心地が悪い。

「……言わないの」
「何を?」
「見てたんでしょ、……あの人たち」
「見たけど、それが?」

 若干突き放すような言い方をされて、自嘲の感情が湧き起こる。
 その感情の勢いのままに、私は言葉を吐き出した。

「自業自得だって、思ってるんでしょ。
 私だって思ってるわよ。……私は本気の相手じゃないんだって、そんなのとっくにわかってた。だけど」

 声大きい、と文隆に囁かれて、口を一度閉ざす。

「──ちょっとは執着してくれてるって、思いたかったの。
 1年付き合ってきたんだもの。少しぐらいは、向こうより、優先してくれる気持ちはあるんじゃないかって……でも違ったね」

「あの人、家族の前ではあんなふうに笑うんだ。奥さんも、子供も幸せそうだった。裏切りなんか、かけらも感じさせてないんだろうね」

「……私、さっき初めて、奥さんと子供の顔見たの。
 写真見るかって言われたことあるけど、見なかった。
 見たくなかったから。
 現実にいる人たちだって、たぶん、認識したくなかったんだと思う──バカだよね、そんなふうに目をそらしたって、現実は変わらないのに」
< 23 / 31 >

この作品をシェア

pagetop