私の恋心と彼らの執着
「本気なのか」
「本気です」
静かに確認してくる彼に、私は答えた。
苦いものを吐き出すような心地がしたけど、堪えた。
「そうか」
わかった、と応じた低い声。
その声がどこか、解放された安堵感を含んでいるように聞こえたのは、私の気のせいだろうか。
「じゃあ、今日で終わりだな。帰るか?」
「はい」
置いたばかりのルームキーを手に取り、彼に続いて部屋を出た。
駅までの道で、彼に転勤の打診が来ているのを聞かされた。
今年度が終わったら本社に戻ることになるらしい。
「そうですか。よかったですね」
付き合う前と同じく、丁寧語に戻して話す私に、紀野課長は何も答えなかった。
終電までは間のある時間帯だが、すでにホームの人はまばらだ。
ちょうど私の自宅方向の電車が来て、乗り込んだ。
反対側のホームの課長と、一瞬だけ目が合う。
けれどすぐに逸らした。
最後の最後に、本心に気づかれるような失敗は、したくなかったから。
走り出した電車の窓、その向こうに流れていく景色を見つめながら、不毛な日々が終わったことを実感していた。