私の恋心と彼らの執着

 新しい勤め先の近くに越すため、マンションの部屋を明日で引き払う。
 大学時代から住んでいたから、離れることにはちょっと寂しさも感じる。

 夕方には、ワンルームの狭い部屋には段ボール箱の山と、空っぽになった家具が並んだ。ベッドと、朝までに使ういくつかの日用品は残してある。それらは明日、空けてある箱に詰め込む予定だ。

「ありがとう、助かったわ。ごはん奢るけど食べに行く?」
「いや、外行くと飲んじまいそうだし、ピザとかでいい」

 というわけで、夕食はデリバリーのピザになった。
 お酒の代わりに、同時注文したコーラで乾杯をする。

 他愛のない話を食べながら続けていたけど、ふと、会話が途切れた。

「おまえ、こっちに戻ってくる気は、もうないのか?」
「うん、たぶん。実家にはたまに帰るけど」

 このマンションも大学も職場も、そして実家も同じ県内にある。
 30年近く、大雑把に言えば慣れた場所で暮らしてきた。
 そんな自分を、これ以上甘やかさずに生きていくという意味では、今回の件はちょうどいいきっかけだったのかもしれない。
 何もなければ、私はずっと、今の会社でぬるま湯につかるように日々を過ごしていったことだろう。
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