ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました

*** side 氷室仁


「桜子、この肉うまいぞ」

「はい」

「このパッタイも」

 シン兄は次々と夕月さんのお皿に料理を載せる。

「私が」と、伸ばしかけた彼女の手を掴み、テーブルの上に置く。
「いいから、いいから」

 困り顔の夕月さんなどお構いなしに、今度はまだ空いていないグラスにワインを継ぎ足した。

「今日はコルヌイエに泊まるんだ。心置きなく飲もう。子どもたちは両親と家政婦が寄ってたかって面倒みてるから心配ないさ」


 見ていられない溺愛ぶりに、飛翔さんがため息をつく。

「あのシン兄がねぇ」

 俺も「まさかの溺愛」と笑った。

 シン兄は、どちらかといえば孤独を愛するタイプで、特に女性に対して人嫌いぶりを発揮していた。

 小学生ですでに同世代の女の子はもちろん、女性教員にまで憮然とした表情を崩さなかった。『慎一郎くん』と声をかけられると、なんの用だと言わんばかりに睨み返していたのを覚えている。

 それが今じゃ。
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