9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
「長旅になる。最後に別れを告げたい者はいるか?」

「いいえ。実家へは此度のことは陛下が伝えるとおっしゃってくださったので、大丈夫です」

「そうか、では早速国境に向かおう」

生まれ育った家に、まったく未練はない。

もともと愛されるどころか、疎まれていたくらいだ。

王都を抜け、郊外に出ると、デズモンドは馬を疾走させた。

護衛の騎士たちも、見事なひし形の陣形を崩さずに馬を走らせる。

麦の穂が風に揺れ、青空に白い雲の揺蕩う朝の清々しい景色が、果てなく続いていた。

(九回も人生をやり直したけど、考えてみれば、国を出るのは初めてだわ)

不貞の罪で死刑を覚悟していたはずなのに、生き永らえ、こんな美しい景色を馬上で眺めているなど信じられない。

まるで何も知らなかった少女の頃のように、気持ちがドキドキとしている。

(それにしても、この方があの皇帝デズモンドだなんて……)
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