9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
ある日のことだった。

妃教育の合間を縫って、その日も図書館に足を運んだセシリアは、書庫の奥深くから古びた本を見つける。

それは、古の魔導士が記した時空魔法の専門書だった。

(時空魔法の専門書なんて、初めて見たわ。魔法城の書庫にもなかったのに)
 
一般的な魔法である火・水・風・土の本なら、どこにもあふれている。

次いで見受けられるのが、治癒魔法・暗黒魔法の本だ。

時空魔法を操れる者は、世界の歴史の中でも数えるほどしかいなかったらしく、詳細に書かれた本は稀だった。

専門書ともなると、かなり希少である。

いつしかセシリアは、その本を夢中になって読んでいた。

今まで知らなかった時空魔法の知識が、事細かに書かれている。

(なるほど。時空魔法を発動したときに戻る場面は、自分が強く心に思い描いた場面なのね。毎回、十八歳のときエヴァン殿下に夜会にはマーガレット様を連れて行くと言われたあの場面に戻るのは、エヴァン様がもっともエヴァン様らしく健康だった頃だからだわ。エヴァン様の死を前にして、私は無意識に健康だった頃のエヴァン様を強く心に思い描いていたのね)

時空魔法のコントロールの仕方を今さらながら知って、感心する。

それにやはり、時空魔法の発動は十回が限界なようだ。

この本には、過去に時空魔法を使えた三人のうち、ふたりが八回目、ひとりが十回目で死んだと書いてある。

もっとも時空魔法を使うと他人には記憶が残らないので、その者が死んだ後で初めて繰り返し時空魔法を使っていたことが分かるらしい。
< 195 / 348 >

この作品をシェア

pagetop