9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
「カインは体調を崩したため、代わりに俺が行くことになったんだ。我が国にとって、オルバンス帝国との友好条約は最優先事項だ。次期国王として立ち合った方がいいだろうと、国王も判断された」

「そうだったのですか……」

とはいえ、不貞を働いた元婚約者のもとに大事な次期後継者を送るなど、エンヤード王も思い切ったものである。

腑に落ちないでいると、セシリアの全身に視線を馳せたエヴァンが、まぶしげに目を細める。

「セシリア。そのドレス、君によく似合っているね。すごくきれいだ」

「え……?」

セシリアは、信じられないものを見る目つきでエヴァンを眺めた。

きれいなどという言葉は、繰り返し人生の中で、どんなに努力をしても彼から一度も掛けられたことがない。

それが婚約関係でも婚姻関係でもなくなった今、当然のように口にされるなど、喜ぶどころか怖くなる。

「どうして、そんなことをおっしゃられるのですか……?」
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