9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
翌朝。

(本当にやってしまった――)

窓から朝の光が射し込むベッドの上で、セシリアは、真っ白な自分の手首を呆然と見つめていた。

昨夜まであった青い聖女の証は、跡形もなく消えている。

本当に不貞を働いてしまった。

聖女ではなく、ただの女になってしまった。

(でもこれで、エヴァン様を救うことができたのね)

今頃はこの国のどこかの女の手に、聖杯を模った痣が浮き上がっていることだろう。
 
達成感のような虚無感のような、何とも言えない感情が込み上げる。

だが、後悔は一切なかった。

下半身に違和感を覚えながら、セシリアはベッドから降りると、脱ぎ捨てていた衣服を身につけた。

黒髪の彼は、こちらに背を向け、寝息をたてている。

セシリアからは、筋肉質な背中の一部が見えているだけだ。彫刻のように見事な背筋である。

木こりは思った以上に重労働のようだ。

彼と会うことは、もう二度とないだろう。

どこの誰だか知らないが、一生に一度の相手が、彼でよかった。

「さようなら、木こりさん」

セシリアは彼の背中に向かって小声でつぶやくと、部屋を飛び出す。

そして動き始めたばかりの街の中を歩み、威風堂々とそびえるエンヤード城に向かった。
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