9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
(私、これからこの人に、本当に抱かれるんだわ)

そう感じたとき、ドクンとひときわ大きく心臓が跳ねた。

今さらのように、恐怖が競り上がってくる。

「その……。私、初めてで」

「怖がる必要はない。俺も初めてだ」

「え……?」

(ああ、そうなのね。きっと、性格はいいのに見かけが悪くてモテないのだわ。こんなみじめな女を喜んで抱いてくれるような人なのだもの)

胸の内で勝手に解釈して、男に同情してしまった。

「名前は?」

唇に息がかかるほどの距離で、男がささやいた。

「それは申せません」

「そうか、まあいい」

男は自分に言い聞かせるように言うと、セシリアの身体をいとも簡単に横抱きにし、再びベッドに横たえた。

「――責任は取ってやる」

唇が重なる寸前、そう囁やかれたように聞こえたが、おそらく気のせいだったのだろう。

自分の心臓の音ばかりが耳にうるさくて、セシリアには、男のセリフを聞いている余裕などなかったのだから。
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