美しすぎる令嬢は盲目の彼を一途に想う
 私は彼の体に寄り添い、その胸に顔を埋めた。
 顔が触れた瞬間、彼はビクッと震えて暫く固まっていたけど、恐る恐る私を抱きしめてくれた。

「……あれ? 君って、思ったよりも小柄じゃないか? それに髪も凄いフワフワだし……本当にゴリラ女なんて呼ばれているのかい?」
「あ……。そうだわ!もしかして私のゴリラ姿って、実は呪いがかかっていただけで、真実の愛で元の姿に戻ろうとしているのかもしれないわ!」
「え……ええ?」

 突然の私の三文芝居に、彼は気が抜けたような声を漏らした。
 でも私はこのまま強引にこの設定を突き通す。

「あとは愛のキスさえすれば、完全に呪いが解けて美しい令嬢の姿に戻れるはずだわ!」
「……それは……困るな」

 あら、口付けの口実にしようとしたのに、逆に拒まれてしまったわ。
 だけどもう、私の方は完全にその気になってしまっている。

 私はアルの首に手を回し、その唇に自分の唇を重ねた。
 本当に触れるだけのキス。だけど、きっと真っ赤な顔して驚いてるに違いないわ。
 そんな彼の顔を見たくて、私が離れようとしたその時、背中に回されていた彼の手によって一気に引き寄せられた。
 先程触れ合ったばかりの唇が再び重ねられた。
 それはとても深くて、絡め取る様に私を欲しがるとても情欲的な口づけ。
 彼の腕に強く抱きしめられ、私はなされるがままに身を委ねるしかなかった。

 長い口づけの後、ようやく解放された私は突然の出来事に混乱したまま、暫く惚けていた。

「……君のせいだからな。もう、手放すつもりはないよ」

 いつもの優しい彼の声とは違う、少し色気を感じる声に、私の胸の鼓動は速さを増すばかり。

 どうやら、見た目に振り回されていたのは私の方みたい。
 草食系だと思っていた彼が、実は肉食系だったなんて。

 多分、私の顔はありえない程真っ赤に染まっている。
 今だけは、彼の目が見えていない事をありがたく思う程に――
 だけど、チラリと覗いた彼の顔は、まるで全て見透かしているかの様に微笑んでいた。

 
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