アラ還でも、恋をしていいですか?
(今日はおにぎりにしよう)
さすがに毎日おはぎは難しい。今日は多めにご飯を炊き、梅干しの壷を出すため台所の流しの下にある扉を開けた。
「よいしょ…ふぅ」
若い頃はどうって事も無かった動作も、年を重ねると難しくなってくる。かがむという動き一つにゆっくり時間を掛けても、体のあちこちが悲鳴を上げる。今日はサポーターをしてるから、少しは楽だけど。
ご飯が炊けた頃合いで章は姿を見せたけど、開口一番に出たのは叱咤。
「おい!朝枕元に靴下が用意してなかったぞ!おれに裸足で過ごせというのか!」
「す、すみません!今お持ちします」
「それに、庭の雑草が生え放題だろう!昨日近所の人がジロジロ見てた。おれに恥をかかせるつもりか!どうせおまえは1日家にいて暇なんだから、やれることくらいきちんとやれ!」
「……はい」
その後章はくどくどと色々なことにケチをつけてきた。箸の置き方や私の所作や格好に掃除の仕方…
そして、梅干しの壷を見つけて眉間にシワを寄せた。
「おい!梅干しなんて塩辛いものを食わせておれを殺す気か!もういい!!」
ガチャン、と食卓を叩くとそのまま立ち上がり、荒々しく扉を閉めて出ていった。
しばらくしてまた車のエンジン音が聞こえて遠ざかる。
(また、あの女のところね)
最近お気に入りの三十代の美人女将がいる居酒屋。昨日帰って来た章は、上機嫌で“お前も見習え”と、スマホのカメラで撮った写真をこれみよがしに見せつけてきた。