しづき


パカリ



箱が開かれれば、中には2つの指輪。



「1年前から温めておいたペアリング」



い、1年前…。重い、めちゃくちゃ重い。



「いつ渡そうか考えてたんだけど、まさか汐月から言ってくれるなんてね」


「いやべつにそういうわけじゃ…」


「ナイスタイミングだよ。ほら左手出して」



出してというくせに、待ちきれないのか自分の手ですくいとってくる。



嵌められるのはもちろん薬指。



するりと親指で触れられた瞬間、ある記憶がよみがえってきた。





──『好きだ…汐月』



低い、大好きで、大っ嫌いな、声。





「…いやっ!」



パシンと音を立ててその手を振り払った。



すぐそばの白が、別の人間としての輪郭を描き出して、全身に嫌悪感が走る。



「汐月…どーしたの?」



驚いたように私を見る白。



その顔はやっぱり綺麗で、紛れもない白で。


< 107 / 312 >

この作品をシェア

pagetop