イノセント*ハレーション
バイトが終わるとあたしは店長の車で自宅近くの公園まで送ってもらうことになっている。

それはチャラバイトくんや駅前でうろうろしている勧誘の男性方対処でもある。

こんなに厚待遇なのは、店長が母の大学時代のゼミ仲間であるという、世界は広いようで狭いということを痛感させられる関係があってのこと。

でも店長が不在の時は普通に電車やらバスやらで帰るし、そもそも塾帰りの高校生とか普通に歩いているからなんの心配もないように思える。

だけど、親という生き物は子供が自分の命より大事なもので、心配するなと言われてもしてしまうものなのだそう。

おばあちゃんが常日頃から言っている。

だから、あたしは心配してもらえるうちが華だと思うことにしている。


「サザンクロスどこかなぁ...」


公園から自宅までの200メートルの道のりを夜空を見上げながら、ゆっくりのんびり歩いていく。

夏の夜風はちょっとベタついてあまり好きではないけれど、夏の夜空はどうしたって好き。

夜空を見ながら物思いに耽るっていうのもなかなか風情があると思う。

長くて短い200メートル。

帰ったらおばあちゃんにお休みを言って、

朝ごはんとお弁当の下準備をして、

お風呂に入って勉強して、

眠って...。

朝起きたら洗濯機を回して朝食アンドお弁当作りをして...。

変わらない毎日。

今まで過ごして来た日々。

きっとこれからも変わることなく同じようで違う日々が流れ、その度にあたしは思うのだろう。


「強く生きなきゃ」


あたしの光が眩しすぎて

写真に映したらハレーションだと思われるくらいに。

一生懸命生きて生きて、

輝いて...

いつかまた、

誰かのために

誰かの隣で

笑えるように...。


早足で団地を駆け抜ける。

夏の夜空が嫌でも肌に触れて、そこから滲む感情に惑わされないように、あたしはただ前だけを向いた。

やって来た夏を、

これから始まる夏を、

楽しめるように。

< 20 / 220 >

この作品をシェア

pagetop