Rain or Shine〜義弟だから諦めたのに、どうしたってあなたを愛してしまう〜
* * * *

 カチャンという金属音がして、瑞穂はビクッと体を震わせた。ゆっくり目を開けると、恵介が困ったような笑顔を浮かべていたため、瑞穂は再び驚いてベッドの上を後ずさる。

「ごめん。お昼食べてなかったからさ、近くのお店でテイクアウトを頼んだんだ。なかなか美味しそうだよ」

 あぁ、そうだ。午前中に恵介が家に来て、このホテルに強引に連れてこられたんだわ。

 恵介のスマートな姿にドキドキしながらも、テーブルに置かれたケーキやベーグルサンドに目が行ってしまう。なんで美味しそうなんだろう……そう思うと、ついお腹の虫が鳴きだした。

「あはは! お腹は素直だな!」
「だ、だって……!」

 恵介に手招きをされ、瑞穂は困惑しながらも少しずつ恵介との距離を詰めていく。

「瑞穂が好きだったスモークサーモンのベーグルがあったから買ってみたよ。今も好き?」
「うん、大好き……しかもクリームチーズ入り? 大好物ばかりじゃない」
「良かった。この十年で好みが変わってたらどうしようかと思った」

 イスに座りベーグルを頬張ると、涙が出てきた。外に出るのが怖くて、なかなか好きなものを買いに行ったり出来なかった。自分の好みより崇文の好きなものを優先してきたから、こうして自分の好きなものを優先してくれる恵介の配慮が嬉しかった。

「あっ……恵介は食べたいものあった?」
「大丈夫。俺はローストビーフのベーグルにしたから」
「……好きなの? ローストビーフ」
「大好き。いろんな店のローストビーフ丼を食べて、SNSに写真を上げまくってる」
「意外! 恵介ってそういうことするんだ!」
「するよ。好きなものにはかなり執着するからね」

 そう言ってから、瑞穂をじっと見つめる。

 いろいろやんちゃなことをしてたけど、何に対しても真っ直ぐで一生懸命。思ったことを曲げない強さがあった。だから検察官になったと聞いた時は納得した。彼ほど正義感が強い人はいない。そう、崇文よりもずっとキレイで芯が通っている。

 変わらない恵介を前にして、変わってしまった自分が情けなくなる。
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