Rain or Shine〜義弟だから諦めたのに、どうしたってあなたを愛してしまう〜

「……その人はどうなったの?」
「そんな出会いの二人だったけど、夫婦仲は良かったんだ。ただ勝手なことをしたせいで織田信長の怒りを買っちゃったんだよね。織田軍に攻められ、領民と自分たちの命を守るという約束をして開城したのに、二人は殺されてしまった」
「でも領民は守られた?」
「そう。だから未だにここでは女城主への感謝を忘れていないんだって」
「波瀾万丈だね……」
「戦国時代なんてそんなものだよ。語り継がれないけど、もっと壮絶な経験をしている人がたくさんいたんじゃないかな」

 自分を犠牲にして領民を守ったおつや。瑞穂はそっと腹部に触れる。私は自分を犠牲にして何を守っているんだろう。体裁? 自分の居場所? それは自分を犠牲にしてまで守るべきものなのだろうか。

「恵介といると、すごく勉強になる」
「戦国時代の豆知識ならいくらでも教えてあげるよ」
「あはは! さすが恵介だね。楽しみにしてる」

 本丸が近付いてくると、緑も深くなっていく。瑞穂は大きく息を吸い込んだ。

「空気が美味しい……」

 清々しい空気を胸いっぱい溜め込むと、体中の毒素が出ていくような気がした。弱虫ではっきり言えない自分が、このまま全て消えてなくなればいいのに……。

 ふと頭の中に崇文の姿が現れゾッとする。あそこには帰りたくない……でもそんなことは無理な話。明日の夜にはあの禍々しい空気の漂う家に帰らなければならないんだ。そう考えると気持ちが落ちていった。
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