大切なあなた
「何で、奥さんだったの?」
「え?」
私がいきなり変な質問をするものだから駿が口を開けたままこっちを見ている。

「ごめん、私何言っているんだろう」

やはり今日の私は少しおかしい。
きっと影近が目の前にいるせいだと思うけれど、少し感傷的になっているのかもしれない。

「先輩は自分で自分のことができない生活って考えたことがありますか?」
「は?」
「歩けないとか、食べられないとか、寝たきりで動けないとか、」
「・・・ないわね」

幸い、今まで元気に生きてきたことだけが自慢。
大きな病気もケガもしたことはない。

「僕、中3の時両手を骨折したんです。サッカー部の接触プレーで」
「へー、それは大変だったわね」
「ええ。半月ほどは病院へ入院して、その後自宅へ帰ったんですが帰ってからの方が大変で」

そりゃあそうだろう。
両手が使えなければ何もできない。

「食事も、着替えも、お風呂も、トイレも、すべて人に助けてもらわないといけない生活が辛くて、マジで死にたくなりました」
「そうだろうね」

中3なんて多感な時期には辛かっただろうな。

「その時、たまたま妻も入院していたんです。もともと体が丈夫でなくて入退院を繰り返していましたから」
「そうなんだ」
「それまでは、体が弱いかわいそうな子くらいにしか思っていなかったんですが、自分も同じような立場になってみて桃花の、彼女の気持ちがやっとわかったんです」

なるほど、それがきっかけなのか。
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