大切なあなた
「当時中学に入ったばかりの妻は、友達もいなくて、学校でも孤立していました。食事制限があって給食も食べられず、運動制限のお陰で体育の授業も不参加。当然部活動にも参加できなくて、その上学校は休みがち。よくよく考えれば何が楽しくて生きているんだろうと思うんですが」
「そうね、かなりつらいわよね」
「でもね、妻は決してあきらめないんですよ」

駿のまっすぐな視線が何か挑んでくるようで、きっと私に何か伝えたいことがあるんだなと感じた。

「妻は小学生の時、『君の体は他の人より負荷がかかることが多い。一般的に考え寿命は普通の人の半分くらいと思ってほしい』と言われたそうです。まずは無理をしないこと。食事に気を付けないと腎臓の機能が悪化して人工透析になる。そうすると週に数日間、何時間にもわたって透析を受けることになる。その後は車いすの生活になって、寝たきりになってしまう。それを防ぐためにも体を大事に生きなさいと。とても小学生にする話だとは思いませんが、当時の主治医の先生なりに考えて話されたんだろうと思います」
「すごいわね」
自分だったらと思うと、とても耐えられない。

「当時、僕は妻の姉と親しくしていました。妻とは対照的で明るい人で一緒にいると楽しかった。でも、いつの間にか僕は桃花を好きになっていた」

駿にしては珍しく暗い顔。
いつも何があっても「大丈夫ですよ」と笑い飛ばす彼らしくない。
でも、その険しい表情から何か決意のようなものを感じて言葉が出なくなった。
< 26 / 29 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop