パパの浮気現場
現場
四時五十分。
私はブレザーを入れた紙袋を手に持ち、駅ビルの百均で買ったメガネをかけ、同じく百均で買ったゴムで柄にもなく長い髪をギュッと固めの三つ編みにして、駅前ロータリーの端っこに立っていた。
これならパッと見、私だと分からないと踏んで、待ち合わせっぽい感じで立ったのは春の花が咲き誇る花壇の前。
今か今かとパパの姿を探してロータリーへ出てくる人たちに目を配る。
見つけたくない、見たくないと思いながら。
四時五十八分。
心臓がドキンと跳ねた。
「……パパ」
朝家を出た時と同じスーツ姿のパパが駅舎からロータリーへと歩いてくる。
でも、一人だし。と自分に言い聞かせていたのに、パパは誰かを探すように視線をさまよわせた。
そして数秒後、嬉しそうな顔をしてふっと手を上げた。その優しい笑顔に胸が詰まる。
パパはそのまま二三歩前に出た。そこに若い女性が駆け寄る。
クロッシェ帽の大きめのつばに隠れて顔は見えない。だけど、柔らかなラインを描くフレアのスカート、淡い色の上着に大きめなバッグは女子大生って言われたら納得の装いで……。
「嘘でしょう?」
信じられない。どうしよう。なに、これ。あり得ない。
頭の中を色んな言葉と想いが駆け巡る。
どうすればいいのか分からない、と思いつつ、気がつくと私は駆け出していた。
「パパ!」
女子大生との間に割って入るように飛び込んで、パパに抱きついた。
何故、そんな子どもっぽい行動に出たのかとか、これじゃあ浮気現場を押さえたことにすらならないぞとか、冷静に考えればそうなのだけど、我慢できなかったのだから仕方ない。
だけど、次の瞬間、私は脱力することとなる。
「え? あれ、未玖? なんでこんなところに」
「え、未玖?」
まったく邪気のないパパの声。そして、聞き覚えのある高くて朗らかな声。
「……え?」
パパにくっついたまま顔だけ後ろに向けると、そこには見覚えのある顔があった。
「……梨央、ちゃん?」
驚いたように目を大きく見開いたのは、三つ上の従姉、梨央ちゃんだった。
そして、更にクスクス笑いを漏らしながら登場したのは……。
私はブレザーを入れた紙袋を手に持ち、駅ビルの百均で買ったメガネをかけ、同じく百均で買ったゴムで柄にもなく長い髪をギュッと固めの三つ編みにして、駅前ロータリーの端っこに立っていた。
これならパッと見、私だと分からないと踏んで、待ち合わせっぽい感じで立ったのは春の花が咲き誇る花壇の前。
今か今かとパパの姿を探してロータリーへ出てくる人たちに目を配る。
見つけたくない、見たくないと思いながら。
四時五十八分。
心臓がドキンと跳ねた。
「……パパ」
朝家を出た時と同じスーツ姿のパパが駅舎からロータリーへと歩いてくる。
でも、一人だし。と自分に言い聞かせていたのに、パパは誰かを探すように視線をさまよわせた。
そして数秒後、嬉しそうな顔をしてふっと手を上げた。その優しい笑顔に胸が詰まる。
パパはそのまま二三歩前に出た。そこに若い女性が駆け寄る。
クロッシェ帽の大きめのつばに隠れて顔は見えない。だけど、柔らかなラインを描くフレアのスカート、淡い色の上着に大きめなバッグは女子大生って言われたら納得の装いで……。
「嘘でしょう?」
信じられない。どうしよう。なに、これ。あり得ない。
頭の中を色んな言葉と想いが駆け巡る。
どうすればいいのか分からない、と思いつつ、気がつくと私は駆け出していた。
「パパ!」
女子大生との間に割って入るように飛び込んで、パパに抱きついた。
何故、そんな子どもっぽい行動に出たのかとか、これじゃあ浮気現場を押さえたことにすらならないぞとか、冷静に考えればそうなのだけど、我慢できなかったのだから仕方ない。
だけど、次の瞬間、私は脱力することとなる。
「え? あれ、未玖? なんでこんなところに」
「え、未玖?」
まったく邪気のないパパの声。そして、聞き覚えのある高くて朗らかな声。
「……え?」
パパにくっついたまま顔だけ後ろに向けると、そこには見覚えのある顔があった。
「……梨央、ちゃん?」
驚いたように目を大きく見開いたのは、三つ上の従姉、梨央ちゃんだった。
そして、更にクスクス笑いを漏らしながら登場したのは……。